大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和60年(行ウ)30号 判決

主文

一  第一事件被告平塚税務署長が同事件原告竹延ミサオに対し昭和五八年四月三〇日付けでした所得税の決定及び無申告加算税賦課決定のうち、納付すべき税額七七万七八〇〇円、加算税額七万七七〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。

二  第二事件被告横浜南税務署長が同事件原告佐川正隆に対し昭和五八年二月二八日付けでした更正処分及び過少申告加算税賦課決定のうち、納付すべき税額二三二万八四〇〇円、加算税額九万三二〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。

三  第三事件被告成田税務署長が同事件原告佐川廣に対し昭和五八年一二月二六日付けでした所得税の決定及び無申告加算税賦課決定のうち、納付すべき税額九七万三〇〇〇円及び加算税九万七〇〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は五分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  第一事件原告竹延ミサオ(以下「原告竹延」という。)

1  第一事件被告平塚税務署長(以下「被告平塚税務署長」という。)が原告竹延に対し昭和五八年四月三〇日付けでした所得税の決定及び無申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告平塚税務署長の負担とする。

二  第二事件原告佐川正隆(以下「原告正隆」という。)

1  第二事件被告横浜南税務署長(以下「被告横浜南税務署長」という。)が原告正隆に対し昭和五八年二月二八日付けでした更正処分及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告横浜南税務署長の負担とする。

三  第三事件原告佐川廣(以下「原告廣」という。)

1  第三事件被告成田税務署長(以下「被告成田税務署長」という。)が原告廣に対し昭和五八年一二月二六日付けでした所得税の決定及び無申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告成田税務署長の負担とする。

四  被告ら

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  本件各処分の存在

(1) 原告竹延は昭和五五年分の所得について確定申告をしなかったところ、被告平塚税務署長は原告竹延に対し昭和五八年四月三〇日付けで別表(一)の決定欄記載のとおり所得税の決定(以下「本件決定(一)」という。)及び無申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定(一)」という。)をした(以下併せて「本件処分(一)」という。)。

(二) 原告正隆は昭和五五年分の所得について確定申告をしたところ、被告横浜南税務署長は原告正隆に対し昭和五八年二月二八日付けで別表(二)の更正欄記載のとおり更正(以下「本件更正処分(二)という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定(二)」という。)をした(以下併せて「本件処分(二)」という。)。

(三) 原告廣は昭和五五年分の所得について確定申告をしなかったところ、被告成田税務署長は原告廣に対し昭和五八年一二月二六日付けで別表(三)の決定欄記載のとおり所得税の決定(以下「本件決定(三)」という。)及び無申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定(三)」という。)をした(以下併せて「本件処分(三)」という。)。

2  不服申立ての経緯

原告らの不服申立ての経緯は別表(一)ないし(三)記載のとおりである。

3  処分の違法

しかしながら、被告らが原告らに対して行った以上の更正処分、所得税の決定及び加算税の賦課決定(以下まとめて「本件各処分」という。)は、東京地方裁判所昭和四〇年(行ウ)第四五号、同四六年(ワ)第一一一七五号事件(以下「前件訴訟」という。)における裁判上の和解(以下「本件和解」という。)に基づいて、原告ら三名並びに寺内タマ、小林モト、河西栄、佐藤修、北市幸司及び佐川幸義の九名(以下「本件相続人」という。)が、ウチダ商事株式会社(以下「ウチダ商事」という。)、新沼勇、高橋すみ子、細川章一郎、大和田均及び渡辺主一の六名(以下「ウチダ商事ら」という。)から受領した和解金七七〇〇万円(以下「本件和解金」という。)のうち、原告らが本件相続人の協議により分配取得した金員(以下「和解分配金」という。)を不動産の譲渡所得と認定してなされたものであるが、右和解分配金は損害の補償として支払われたもので所得として課税されないものであり、そうでないとしても承諾料であって一時所得となるに過ぎないから、右和解分配金を不動産の譲渡所得と認定してなされた本件各処分は違法である。

4  本件和解の経過等

(一) 東京都練馬区〈住所省略〉畑一六七九平方メートル(以下「本件土地」という。)はもともと佐川子之吉の所有であったが、昭和二三年七月二日自作農創設特別措置法(以下「自創法」という。)三条により国に買収され、農林大臣(昭和五三年七月法律八七号により「農林水産大臣」と呼称が変更されているが、以下便宜「農林大臣」ということとする。)の管理するところとなった。

(二) 佐川子之吉は昭和二五年二月二八日死亡し、妻カツノが三分の一、嫡出子である佐川幸義、寺内タマ、小林モト、原告ら三名及び養子の河西栄が各五七分の四、孫の佐藤修と北市英哉が各五七分の四(代襲相続)、庶子である佐々木ナラが五七分の二の相続分をもって共同相続したが、その後佐々木ナラが同三一年一月一九日死亡したため、同人の相続分を右カツノ以外の相続人が相続し、次いでカツノが同三二年四月一四日死亡したため、同人の相続分を同人の子である佐川幸義、寺内タマ、小林モト、原告ら三名及び河西栄が相続し、更に同五二年五月二九日北市英哉が死亡し、同人の相続分を北市幸司が相続した。

(三) 昭和五四年一一月一日、右佐川幸義、寺内タマ、小林モト、原告ら三名、河西栄、佐藤修及び北市幸司(本件相続人)は、国から買い受ける本件土地の取得割合を佐川幸義一八九分の四・七五、寺内タマ及び原告ら三名各一八九分の三一・四五、小林モト一八九分の三七・五九、河西栄及び佐藤修各一八九分の九、北市幸司一八九分の二・八六とすることを合意した(以下「本件相続人の協議」という)。

(四) ところで、農地法八〇条二項によると、農林大臣は買収した土地が自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認めたときは、これを買収前の所有者又はその一般承継人に売り払わなければならないところ、本件土地は遅くとも昭和三八年頃までには住宅地化し、自作農の創設等の目的に供しないことを相当とする客観的状態となった。

(五) そこで、佐川幸義を除く本件相続人は昭和三八年一〇月一五日付けで同条に基づく本件土地売払いの申込みをした。

(六) ところが、農林大臣は、昭和三六年六月以降ウチダ商事(当時の商号は内田産業株式会社)らに対し、将来本件土地を売払いすることを前提とする転用貸付(使用目的は個人住宅、従業員宿舎及び事務所の敷地)をしてしまい、右佐川幸義を除く本件相続人の本件土地買受けの申込みに応じなかったので、佐川幸義を除く本件相続人は昭和四〇年に国及び右ウチダ商事らを被告として右転用貸付無効確認等を求める行政訴訟(東京地方裁判所昭和四〇年(行ウ)第四五号事件)を提起し、同四六年一二月国に対する訴えを取り下げ、新たに国を被告として本件土地の売買承諾と損害金の支払等を求める訴訟(同裁判所昭和四六年(ワ)代一一一七五号事件)を提起した。

(七) 右訴訟において、佐川幸義を除く本件相続人は、農林大臣に本件土地の売払い義務があること、ウチダ商事らに対する転用貸付が違法、無効であること、国が佐川幸義を除く本件相続人の本件土地買受け申込みに応じないため損害が生じていること、佐川幸義が昭和三五年一二月二六日ウチダ商事らとの間でした本件土地の売買契約は当時のその余の佐川子之吉の相続人に無断でしたものであって無効である、と主張したが、国及びウチダ商事らはこれを争い続けた。

(八) 昭和五四年裁判所の和解勧告があり、長期間の訴訟係属と本件相続人(但し、佐川幸義を除く。)の老齢化もあって、相当額の損害の補償が得られるのであれば仕方がないとして和解勧告に応じることとし、同五五年四月二一日本件相続人(佐川幸義は利害関係人として参加した。)と国及びウチダ商事らとの間で左記要旨の本件和解が成立した。

(1) 国は本件相続人に対し、昭和三八年一〇月一五日付け買受けの申込みに基づいて本件土地を売り払い、所有権移転登記をする。

本件土地の売払いの対価は右買受け申込み当時の価格による。

(2) 本件土地の所有権をウチダ商事らに帰属させ、昭和三五年一二月二六日付け売買を原因とする所有権移転登記をする。

(3) ウチダ商事らは本件相続人に対し、和解金として七七〇〇万円を支払う(本件和解金)。

(九) 本件相続人は昭和五五年五月一〇日右和解金七七〇〇万円を受領し、原告らは、それぞれ一二八一万二五九三円ずつ取得した(和解分配金)。

(一〇) 本件和解金は、本件土地の売払いに関して、国の違法又は少なくとも不当な行政措置によって本件相続人が被った損害をウチダ商事らが国に代わって補償する趣旨のものであり、本件相続人は、〈1〉国の売払いが遅延したことによる金銭的損害、前件訴訟が長期に及んだことによる本件相続人の精神的苦痛、〈3〉本件土地の所有権を喪失する損害として本件相続人一人当たり一〇〇〇万円と弁護士費用等一〇〇〇万円の合計一億円を主張し、裁判所において、ウチダ商事らが主張する六〇〇〇万円との間をとって八〇〇〇万円を設定したうえ、佐川幸義がウチダ商事らから受領した八七〇万円を控除し、本件土地の売払い価格四五〇万円等を加算して七七〇〇万円となったものである。

5  よって、原告らは本件各処分の取消し(仮に原告らの右所得が一時所得として課税されるものであるなら一時所得としての課税金額を超える部分の取消し)を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2記載の各事実はいずれも認める。

2  同3記載の事実のうち、本件相続人がその協議により分配取得した本件和解金が損害の補償として支払われたものであることは否認するが、その余の事実は認める。本件和解金が所得として課税されないものであり、そうでないとしても承諾料であって一時所得となるに過ぎないとの主張は争う。

3  同4に対する認否は左記のとおりである。

(一) (一)ないし(三)各記載の事実はいずれも認める。

(二) (四)記載の事実は知らない。

(三) (五)記載の事実は認める。

(四) (六)記載の事実のうち、農林大臣が昭和三六年六月以降ウチダ商事(当時の商号は内田産業株式会社)らに対して原告ら主張の使用目的で本件土地を転用貸付したこと、佐川幸義を除く本件相続人がその主張するとおりの訴訟を提起したことは認めるが、その余は知らない。

(五) (七)ないし(九)記載の事実はいずれも認める。

(六) (一〇)記載の事実は否認し、主張は争う。

三  被告らの主張

1  原告竹延に対する本件処分(一)の適法性

(一) 本件決定(一)について

原告竹延の昭和五五年分の課税短期譲渡所得金額は左記のとおり、収入金額一二八一万二五九三円から取得費二〇三万四六二五円を控除した一〇七七万七九六八円である(但し、国税通則法一一八条一項により、右金額の一〇〇〇円未満を切り捨てた金額が課税標準となる。以下において同じ。)から、これを下回る金額を認定してなされた本件決定(一)は適法である。

(1) 収入金額 一二八一万二五九三円

本件和解により本件相続人がウチダ商事らから和解金名目で受領した七七〇〇万円(これは本件土地の所有権移転の対価である。)のうち、本件相続人の協議により原告竹廷が取得した金額である。

(2) 取得費 二〇三万四六二五円

〈1〉 取得代金 七四万六七一〇円

本件相続人が昭和五五年二月一五日国から本件土地の売払いを受けた際の価格四四八万七三八五円のうち、本件相続人の協議により原告竹延が負担した金額である。

〈2〉 分筆費用 三万九九三五円

右売払いを受けた際に支払った分筆費用二四万円のうち本件相続人の協議により原告竹延が負担した金額である。

〈3〉 弁護士費用 一二四万七九八〇円

前件訴訟を受任した柳澤弘士、栗田吉雄の両弁護士に支払った弁護士費用七五〇万円のうち本件相続人の協議により原告竹延が負担した金額である。

(二) 本件賦課決定(一)について

本件決定(一)により原告竹延が納付すべきこととなる税額は四一一万四八〇〇円であるから、昭和五九年法律第五号による改正前の国税通則法(以下「旧国税通則法」という。)一一八条三項により右金額の一〇〇〇円未満を切り捨てた四一一万四〇〇〇円に一〇〇分の一〇を乗じて算出した四一万一四〇〇円を無申告加算税として賦課すべきであり(国税通則法六六条一項)、本件賦課決定(一)は適法である。

2  原告正隆に対する本件処分(二)の適法性

(一) 本件決定(二)について

原告正隆の昭和五五年分の課税所得金額は左記のとおり、総所得金額六五一万五九八一円、分離課税にかかる短期譲渡所得金額一〇五七万八一六六円(収入金額一二八一万二五九三円から取得費二二三万四四二七円を控除した金額)であるから、これを下回る金額を認定してなされた本件更正処分(二)は適法である。

(1) 総所得金額 六五一万五九八一円

(2) 短期譲渡所得金額 一〇五七万八一六六円

〈1〉 収入金額 一二八一万二五九三円

原告竹延同様、本件和解金のうち本件相続人の協議により原告正隆が取得した金額である。

〈2〉 取得費 二〇三万四六二五円

ア 取得代金 七四万六七一〇円

原告竹延同様、国から売払いを受けた本件土地の価格四四八万七三八五円のうち原告正隆の負担した金額である。

イ 分筆費用 三万九九三五円

原告竹延同様、原告正隆が負担した本件土地の分筆費用の金額である。

ウ 弁護士費用 一二四万七九八〇円

原告竹延同様、原告正隆が負担した前件訴訟の弁護士費用の金額である。

エ 訴訟費用 一九万九八〇〇円

前件訴訟に要した訴状貼付の印紙代等七九万九二〇二円のうち本件相続人の協議により原告正隆が負担した金額である。

(二) 本件賦課決定(二)について

本件更正処分(二)により原告正隆が納付すべきこととなる税額は四六二万八九〇〇円であり、国税通則法六五条二項に定める正当な理由は認められないから、旧国税通則法一一八条三項により右金額の一〇〇〇円未満を切り捨てた四六二万八〇〇〇円に一〇〇分の五を乗じて算出した二三万一四〇〇円を過少申告加算税として賦課すべきであり(同法六五条一項)、本件賦課決定(二)は適法である。

3  原告廣に対する本件処分(三)の適法性

(一) 本件更正処分(三)について

原告廣の昭和五五年分の課税所得金額は左記のとおり、総所得金額一五三万五六〇〇円、分離課税にかかる短期譲渡所得金額一〇五七万八一六七円(収入金額一二八一万二五九三円から取得費二二三万四四二六円を控除した金額)であるから、右同額を認定してなされた本件更正処分(三)は適法である。

(1) 総所得金額 一五三万五六〇〇円

(2) 短期譲渡所得金額 一〇五七万八一六七円

〈1〉 収入金額 一二八一万二五九三円

原告竹延同様、本件和解金のうち本件相続人の協議により原告廣が取得した金額である。

〈2〉 取得費 二〇三万四六二六円

ア 取得代金 七四万六七一〇円

原告竹延同様、国から売払いを受けた本件土地の価格四四八万七三八五円のうち原告廣の負担した金額である。

イ 分筆費用 三万九九三五円

原告竹延同様、原告廣が負担した本件土地の分筆費用の金額である。

ウ 弁護士費用 一二四万七九八一円

原告竹延同様、原告廣が負担した前件訴訟の弁護士費用の金額である。

エ 訴訟費用 一九万九八〇〇円

原告正隆同様、原告廣が負担した前件訴訟の印紙代等の金額である。

(二) 本件賦課決定(三)について

本件更正処分(三)により原告廣が納付すべきこととなる税額は四二五万七四〇〇円であるから、旧国税通則法一一八条三項により右金額の一〇〇〇円未満を切り捨てた四二五万七〇〇〇円に一〇〇分の一〇を乗じて算出した四二万五七〇〇円を無申告加算税として賦課すべきであり(国税通則法六六条一項)、本件賦課決定(三)は適法である。

4  本件和解金の法的性質について

(一) 農林大臣は、昭和五五年二月一日本件相続人に対し、本件土地の売払代金を四四八万七三八五円とする国有財産売払通知書を交付し、本件相続人は同月一五日右代金を納入し、同年三月二八日本件土地について農地法八〇条による売払いを登記原因とする所有権移転登記を経由した。

その後の昭和五五年四月二一日本件和解が成立し、これに基づいてウチダ商事らは同年五月一〇日本件和解金を本件相続人に支払い、同年六月一四日真正な登記名義の回復を原因として本件相続人から本件土地の所有権移転登記を受けた。

(二) 佐川幸義は、昭和三五年一二月二六日、同人が本件土地について国から農地法八〇条による売払いを受けることを停止条件として同土地をウチダ商事らに売却する契約を締結していたが、本件土地の全部について売払いを受けることができなかったことから、その余の本件相続人においても、右佐川幸義が締結した売買契約と齟齬しない態様で本件土地についての自らの持分を新たに譲渡することとし、本件相続人において一旦国から本件土地の売払いを受けたうえで、これをウチダ商事らに譲渡したものであり、本件和解金は本件土地譲渡の対価というべきである。

(三) 原告らは、本件土地の売払いに関して、国の違法又は少なくとも不当な行政措置によって本件相続人が被った損害をウチダ商事らが国に代わって補償する趣旨のものである旨主張しているが、国は、子之吉から適法に買収した本件土地について、ウチダ商事らからの申込みに応じて転用貸付をし、次いで佐川幸義を除く本件相続人からの昭和三八年一〇月一五日付け売払い申込み及び佐川幸義からの同五一年七月六日付け売払い申込みに応じて本件土地を本件相続人に売り払ったもので、右の措置には何らの違法も存しないから、本件土地の売払いに関して国が本件相続人に対して損害賠償の義務を負ういわれはなく、したがってウチダ商事らが国に代わって本件相続人に損害賠償することもあり得ないのである。

(四) 本件和解金の七七〇〇万円は、次のとおり本件土地譲渡の対価として相当な金額である。

すなわち、本件土地は東京都練馬区〈住所省略〉畑一六七九平方メートル(実測面積一六八二・二八平方メートル)の土地であるが、これに近接する公示地(同所一二七番一〇)の公示価格は一平方メートル当たり一九万七〇〇〇円であったから、この価格に基づいて、底地価格割合を二五パーセント(ウチダ商事らの借地権割合を七五パーセント)として本件土地の底地価格を評価し、なお用地の一〇パーセントを私道部分とする必要があるので一〇パーセントの減価をすると、七四五九万〇一一〇円と評価され、本件和解金と齟齬しない金額となる(なお、国が本件土地を売り払う際にも底地価格割合二五パーセントとして評価している。)。

5  短期譲渡所得であることについて

資産の譲渡による譲渡所得の課税においては、個人がその有する土地又は建物等で昭和四四年一月一日以後に取得したものの譲渡をした場合には、租税特別措置法(昭和五七年法律第八号による改正前のものをいう。以下において同じ。)三二条一項の規定により、短期譲渡所得として課税される。

また、売払いにかかる土地の取得の日は、国有農地等の売払いに関する特別措置法五条一項二号により、農地法八〇条二項により売払いを受けた日とされ、右売払いを受けた日とは、農地法施行規則五〇条二項に規定する売払通知書に記載されている所有権の移転の日であるとして扱われている。

これを本件についてみると、本件土地について農林大臣が売払通知書を交付したのは昭和五五年二月一日であり、右売払通知書には所有権の移転の日は売払いの対価が納入された日と記載されているから、本件相続人が右代金を納入した同月一五日が本件土地取得の日であることになるが、本件土地は同年四月二一日の本件和解成立と同時に本件相続人からウチダ商事らに所有権が移転され、同年五月一〇日その対価が支払われているのであるから、短期譲渡に該当することはいうまでもない。

6  結論

したがって、被告らがした本件各処分はいずれも適法であって、違法な点はない。

7  なお、原告らが取得した和解分配金が一時所得に該当すると判断される場合には、原告らの所得は以下に記載するとおりであり、原告らに対する課税金額は別紙「算出税額の計算」記載のとおりとなる。

(一) 原告竹延にかかる一時所得金額の計算

原告竹延の一時所得金額は、左記の収入金額から必要経費及び特別控除額をそれぞれ控除した五一三万六二三〇円である。

(1) 収入金額 一二八九万五七九四円

原告竹延が取得した和解分配金一二八一万二五九三円に、本件和解により登記等の費用の一部として本件相続人が取得した五〇万円のうち原告竹延の持分に対応する八万三二〇一円を加算した金額である。

(2) 必要経費 二一二万三三三四円

〈1〉 取得代金 七四万六七一〇円

被告らの主張1(一)(2)〈1〉のとおり

〈2〉 登記費用 八万八七〇九円

ウチダ商事らに本件土地の所有権移転登記をするのに要した費用五三万三一〇〇円のうち、原告竹延の持分に対応する金額である。

〈3〉 分筆費用 三万九九三五円

被告らの主張1(一)(2)〈2〉のとおり

〈4〉 弁護士費用 一二四万七九八〇円

被告らの主張1(一)(2)〈3〉のとおり

(3) 特別控除額 五〇万円

(二) 原告正隆にかかる一時所得金額の計算

原告正隆の一時所得金額は、左記の収入金額から必要経費及び特別控除額をそれぞれ控除した五〇三万六三二九円である。

(1) 収入金額 一二八九万五七九四円

原告正隆が取得した和解分配金一二八一万二五九三円に、本件和解により登記等の費用の一部として本件相続人が取得した五〇万円のうち原告正隆の持分に対応する八万三二〇一円を加算した金額である。

(2) 必要経費 二三二万三一三五円

〈1〉 取得代金 七四万六七一〇円

被告らの主張2(一)(2)〈2〉アのとおり

〈2〉 登記費用 八万八七〇九円

ウチダ商事らに本件土地の所有権移転登記をするのに要した費用五三万三一〇〇円のうち、原告正隆の持分に対応する金額である。

〈3〉 分筆費用 三万九九三五円

被告らの主張2(一)(2)〈2〉イのとおり

〈4〉 弁護士費用 一二四万七九八〇円

被告らの主張2(一)(2)〈2〉ウのとおり

〈5〉 訴訟費用 一九万九八〇〇円

被告らの主張2(一)(2)〈2〉エのとおり

(3) 特別控除額 五〇万円

(三) 原告廣にかかる一時所得金額の計算

原告廣の一時所得金額は、左記の収入金額から必要経費及び特別控除額をそれぞれ控除した五〇三万六三二九円である。

(1) 収入金額 一二八九万五七九四円

原告廣が取得した和解分配金一二八一万二五九三円に、本件和解により登記等の費用の一部として本件相続人が取得した五〇万円のうち原告廣の持分に対応する八万三二〇一円を加算した金額である。

(2) 必要経費 二三二万三一三五円

〈1〉 取得代金 七四万六七一〇円

被告らの主張3(一)(2)〈2〉アのとおり

〈2〉 登記費用 八万八七〇九円

ウチダ商事らに本件土地の所有権移転登記をするのに要した費用五三万三一〇〇円のうち、原告廣の持分に対応する金額である。

〈3〉 分筆費用 三万九九三五円

被告らの主張3(一)(2)〈2〉イのとおり

〈4〉 弁護士費用 一二四万七九八一円

被告らの主張3(一)(2)〈2〉ウのとおり

〈5〉 訴訟費用 一九万九八〇〇円

被告らの主張3(一)(2)〈2〉エのとおり

(3) 特別控除額 五〇万円

四  原告らの認否、反論

1  被告らの主張1ないし3のうち、各(一)記載の収入金額及び取得費に関する事項は認めるが、短期譲渡所得である旨の主張及び各(二)記載の主張は争う。

2  同4に対する認否は左記のとおりである。

(一) (一)記載の事実は認める。

(二) (二)記載の事実のうち、佐川幸義がウチダ商事らとの間で本件土地の停止条件付売買契約を締結したとの部分は認めるが、その余の点は否認し、主張は争う。

(三) (三)記載の事実のうち、国が子之吉から本件土地を適法に買収したこと、ウチダ商事らからの申込みに応じて転用貸付をしたこと、次いで佐川幸義を除く本件相続人から昭和三八年一〇月一五日付けで売払申込みがあり、佐川幸義から同五一年七月六日付けで売払申込みがあったことは認めるが、国が本件相続人に対して損害賠償の義務を負わない旨の主張は争う。

(四) (四)記載の事実のうち、公示地及び公示価格に関する事実、国が本件土地を売り払う際に底地価格割合を二五パーセントとして評価している事実は認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

3  同5記載の事実のうち、本件相続人が昭和五五年二月一五日本件土地の所有権を取得し、同年四月二一日の本件和解成立と同時にこれをウチダ商事らに移転したこと、本件和解金が本件土地譲渡の対価であり、短期譲渡に該当することはいずれも否認するが、その余の事実は認め、主張は争わない。

4  同7記載の計算関係は全て認めて争わない。

5  本件相続人が本件土地の所有権を取得してこれをウチダ商事らに売却したとの被告らの主張は実態を無視したものである。

本件和解では形式的に本件相続人からウチダ商事らに本件土地の所有権が移転したごとく記載されているが、右は単なる形式に過ぎず、原告らが主張しているように、国に代わってウチダ商事らが本件相続人に損害の補償をしたものである。

被告らは本件土地が譲渡されたものであると主張しているが、本件相続人は長年にわたって訴訟を維持し、国の責任とウチダ商事らに本件土地占有権原が存しないことを主張してきたのであって、本件土地の底地を売却するというようなことは全く考えていなかった。

のみならず、一般に借地権価格は更地価格の七〇パーセント程度であるところ、公示価格は取引価格の七〇パーセント程度の水準にあると見られるので、仮に被告ら主張のとおり底地の売買であるとするなら、本件土地の底地価格は右公示価格と同額であることになり、その売買価格は一億〇五〇〇万円程度となって、本件和解金の七七〇〇万円では到底不足しているのである。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1(本件各処分の存在)及び同2(不服申立ての経緯)記載の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  本件各処分は、本件相続人の協議により原告らがそれぞれ取得した和解分配金一二八一万二五九三円を不動産の譲渡所得と認定してなされたものであるところ、原告らは、これが不動産の譲渡所得に該当しないと主張して本件各処分を争うので、まず、本件和解金授受の法的性格について検討することとする。

1  請求原因4(本件和解の経過等)(一)ないし(三)、(五)、(七)ないし(九)記載の各事実は、いずれも当事者間に争いがなく、右各事実に、〈証拠〉及び原告廣本人の供述を併せると、以下の諸事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  本件土地はもともと佐川子之吉(昭和二五年二月二八日死亡)の所有であったが、昭和二三年七月二日自創法三条により国に買収され、農林大臣の管理するところとなった。

(二)  ところで、自創法三条により国が買収した農地は、原則として小作人等に払い下げられることとされたが、右買収農地等のうち近く農業以外の用に供されることが客観的に見込まれるものについては右払下げの対象から外され、農林大臣において適当と認めた場合に戦後の生活の困窮者又は住宅困窮者の住宅用地として転用するために貸付(転用貸付)されていた。

そして、昭和三七年法律第一二六号による改正前の農地法八〇条二項によると、農林大臣は買収した土地が自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認めたときは、これを買収前の所有者(以下「旧所有者」という。)に売り払わなければならないとされていたため、旧所有者が生存中はその者の同意を得た者に限って転用貸付を行い、旧所有者が死亡している場合には払下げを受ける権利が消滅しているとして同意なく転用貸付を行う運用がされていたが、右改正後の農地法八〇条二項は、農林大臣において買収した土地が自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認めたときはこれを旧所有者又はその一般承継人に売り払わなければならない旨規定して、旧所有者の一般承継人に対する払下げを新たに認めたことから、旧所有者が死亡している場合でも、第三者に対する転用貸付には旧所有者の一般承継人の同意が必要となった。

(三)  本件土地の周辺は次第に宅地化し、本件土地も早晩宅地として利用されることが見込まれるようになったことから、これに目を付けた不動産業者の原田清太郎は、当時本件土地を耕作していた佐川幸義(佐川子之吉の長男)との間で、右農地法の改正を前提として本件土地を宅地化する話を進め、原田清太郎が佐川義幸の代理人として、昭和三五年一二月二六日ウチダ商事(当時の商号は内田産業株式会社)らとの間で、それぞれ佐川幸義が本件土地について農地法八〇条による払下げが受けられることを停止条件とする土地売買契約を締結し、その後ウチダ商事らは、それぞれ農林大臣に対して転用貸付の申込をなし、農林大臣は、昭和三六年六月以降ウチダ商事らに対し、将来本件土地を売払いすることを前提とする転用貸付(使用目的は個人住宅、従業員宿舎及び事務所の敷地)をなし、ウチダ商事らは本件土地に建物を建築するなどしてこれを利用し始めた。このため、本件土地は遅くとも昭和三八年頃までには住宅地と化し、自作農の創設等の目的に供しないことを相当とする客観的状態となった。

(四)  佐川幸義の本件土地売却を知った佐川幸義以外の本件相続人は、昭和三八年一〇月一五日付けで農林大臣に対し本件土地買受けの申込みをした。

ところが、ウチダ商事らに対して本件土地を転用貸付していた国は、本件相続人とウチダ商事らとの権利関係の調整が未了であるとして本件相続人に対する農地法八〇条による払下げを実行しなかった。

このため、佐川幸義を除く本件相続人は昭和四〇年に国及び右ウチダ商事らを被告として右転用貸付無効確認等を求める行政訴訟(東京地方裁判所昭和四〇年(行ウ)第四五号事件)を提起し、同四六年一二月国に対する訴えを取り下げ、新たに国を被告として本件土地の売買承諾と損害金の支払等を求める訴訟(同裁判所昭和四六年(ワ)第一一一七五号事件)を提起した。

(五)  右訴訟において、佐川幸義を除く本件相続人は、農林大臣に本件土地の売払い義務があること、ウチダ商事らに対する転用貸付が違法、無効であること、国が佐川幸義を除く本件相続人の本件土地買受け申込みに応じないため損害が生じていること、佐川幸義が昭和三五年一二月二六日本件土地の売買契約は当時のその余の佐川子之吉の相続人に無断でしたものであって無効である、と主張したが、国及びウチダ商事らはこれを争い続けた。

(六)  右訴訟の係属中度々和解の話が持ち出されていたが、いずれもまとまらず、本件土地の時価を基準として和解金の額を決めようとする方向で話し合われた昭和四八年の和解交渉も、右和解金が本件土地の譲渡所得として課税される場合にその税金を負担すべきことを佐川幸義以外の本件相続人が国及びウチダ商事らに要求したことから、結局話がまとまらなかった。

その後昭和五四年に裁判所の和解勧告があり、佐川幸義を利害関係人として参加させたうえ、佐川幸義以外の本件相続人において佐川幸義がウチダ商事らとの間でした本件土地の停止条件付売買契約を追認し、本件土地をウチダ商事らの所有とする方向での和解が進められ、本件相続人においても、長期間の訴訟係属と自らの老齢化という事情もあって、基本的には右和解を受け入れる方向で検討することとなった。

右和解において、本件相続人はウチダ商事らの行為によって被った損害及び訴訟期間中の精神的苦痛として一人当たり一〇〇〇万円の金員と弁護士費用等一〇〇〇万円を合計した一億円の和解金を要求するとともに、国からウチダ商事らに直接本件土地の払下げをすることを主張したが、ウチダ商事らは和解金として六〇〇〇万円を主張し、国もウチダ商事らに直接本件土地の払下げをすることはできないという意向であったため、まず和解金額については、裁判所において本件相続人とウチダ商事らの主張を調整する形で八〇〇〇万円を設定し、この金額から佐川幸義がウチダ商事らから受領済の八七〇万円を控除し、本件土地の売払い価格四五〇万円と印紙代等の訴訟費用を加算した結果として本件和解金七七〇〇万円が算出され、本件土地についても、本件相続人が国から払下げを受ける形は取るものの、和解の時点において本件土地の所有権がウチダ商事らに帰属していることを確認したうえで、本件和解金の支払いを受けるのと引換えに、本件土地について昭和三五年一二月二六日付け売買を原因とする所有権移転登記をするという内容で和解交渉が煮詰められていった。

これに対し本件相続人は、裁判の長期化と自らの老齢化という事情もあって、相当額の補償が得られるのであれば本件土地の取得を諦めることもやむを得ないと考えるに至り、原告廣において、譲渡所得として課税されるのでは困るので、損害賠償金であることを和解条項の中に明記して欲しい旨申し述べたものの実現せず、結局和解金として金員を授受することで和解に応じることを了解し、まず、和解の前提として、昭和五五年二月一日農林大臣から本件土地の代金を四四八万七三八五円とする国有財産売払通知書の交付を受け、同月一五日右代金を国に納入し、同年三月二八日本件土地について農地法八〇条による売払いを原因とする所有権移転登記を受けたうえ、同年四月二一日国及びウチダ商事らとの間で左記要旨の本件和解をなした。

(1) 本件相続人とウチダ商事らは、佐川幸義を除く本件相続人の昭和三八年一〇月一五日付け買受けの申込みに基づいて、本件土地が総額四四八万七三八五円で農地法八〇条二項による売払いがされ、本件相続人に所有権移転登記が完了されていることを確認する。

(2) 本件相続人とウチダ商事らは、本件土地について昭和三五年一二月二六日付けをもって売買契約が締結され、代金金額が受領ずみであることを確認する。

(3) ウチダ商事らは本件相続人に対し、和解金として七七〇〇万円を支払う。

(4) 本件相続人はウチダ商事らに対し、本件和解金の支払いを受けるのと引換えに、本件土地について昭和三五年一二月二六日付け売買を原因とする所有権移転登記をする。

(七)  本件相続人は、昭和五五年五月一〇日右和解金七七〇〇万円を受領し、真正な登記名義の回復を原因としてウチダ商事らに所有権移転登記をなした(この登記原因は和解条項と相違する。)。そして、原告らは、本件相続人の協議に基づいてそれぞれ一二八一万二五九三円ずつを取得した。

(八)  本件各処分は、本件相続人の協議により本件和解金を分配した結果として原告らが取得した各一二八一万二五九三円を不動産の譲渡所得と認定してなされたものである。

2  以上の認定にかかる諸事実によると、昭和三七年の農地法八〇条二項の改正により、国の買収農地を旧所有者のみならずその一般承継人にも売り渡すこととされ、本件相続人が本件土地の売払いを受けることが可能となったにもかかわらず、本件土地を耕作していた佐川幸義が右法改正以前に本件土地の払下げを条件としてこれをウチダ商事らに売却してしまい、これを踏まえて国がウチダ商事らに本件土地を転用貸付したことから、佐川幸義を除く本件相続人が右土地売却と転用貸付の効力を争うとともに本件土地の売払いを求めて前件訴訟を提起したものの、同訴訟は農地法八〇条二項の法改正に伴う前後の運用の適否及び転用貸付と旧所有者の権利との法律関係という困難な法律上の争点を抱える難事件であったことから、裁判所においても事案の妥当な解決という観点に立脚して和解の勧告を繰り返し、このような状況のもとで本件相続人も裁判の長期化と自らの老齢化という諸事情から相当額の補償を受けることで本件土地の取得を諦める旨決意するに至ったものということができ、このような本件和解の実態に則して見ると、本件和解金はまさしく本件相続人が本件土地の取得を断念する代償として授受されたというべきであり、右金員は所得税法三四条一項に規定する一時所得を構成する所得であるといわなければならない。

被告らは、本件和解金が本件土地の譲渡代金である旨主張しているが、本件和解交渉において本件土地をウチダ商事らに売却することを前提とした当事者間のやりとりがされたり、本件和解金の決定について本件土地の時価が鑑定されたと認めるに足りる証拠はなく、本件和解金の金額にしても、前認定のとおり、本件土地の所有権がウチダ商事らに帰属することを前提として、本件相続人の一人当たり一〇〇〇万円の損害金と弁護士費用一〇〇〇万円の合計一億円をいう本件相続人側と六〇〇〇万円をいうウチダ商事らの双方の主張の間をとった金額にその他の調整を施して導き出された金額であって、本件土地の時価を基準として導き出されたものではない。

確かに本件和解の形式として、本件相続人が国から本件土地の売払いを受けたうえ、これをウチダ商事らに昭和三五年一二月二六日売買を原因として所有権移転登記することとされ、事実そのような形式(登記原因を除く。)が取られているが、当事者の交渉は、まさしく本件相続人が本件土地の所有権取得を断念することの代償として金額の交渉がなされたのであり、右のような形式を採用したのは国からウチダ商事らに直接売払いができないとする国側の主張を受けて取られた形式に過ぎず、本件和解の実態を反映したものではなかったのであるから、本件和解金が本件土地譲渡の代金であるとする被告らの主張は採用できない。

また、原告らは、本件和解金が損害の填補金であるから課税されない旨主張し、具体的には、〈1〉国の売払いが遅延したことによる金銭的損害、〈2〉前件訴訟が長期に及んだことによる本件相続人の精神的苦痛、〈3〉本件土地の所有権を喪失する損害の三点を主張しているところ、本件和解において、本件相続人が自分たちの被った損害の補填という観点から和解金の金額を主張していたことは前示のとおりであり、本件相続人が主観的にそのような気持ちを抱いていたことは原告廣本人の供述を待つまでもなく容易にこれを認めることができる。

しかしながら、本件和解金の法的性格は、あくまでも本件和解金授受の実態に則して判断されるべきものであるから、本件相続人が主観的に右のような理解をしていたことをもって本件和解金が損害の賠償金であるということはできないし、原告らが主張する右各項目について検討しても、〈1〉及び〈3〉については所得税法九条一項二一号所定の損害賠償金に該当せず、〈2〉についても、本件相続人の主観的な感情としては理解できても、ウチダ商事ら又は国にその賠償義務があることを前提として本件和解金の授受がされたと認めるに足りる証拠はないのであるから、これまた採用できない。

三  以上の次第で、原告らが取得した和解分配金は不動産の譲渡所得ではなく、原告らの一時所得に該当するところ、その場合における原告らの所得金額及び納付すべき税額及び加算税額はいずれも被告らが主張するとおりである(この点については原告らもこれを争わない。なお、原告正隆に対しては、納付税額二三二万八四〇〇円から申告納付済みの四六万三六〇〇円を控除した一八六万四八〇〇円が新たに課税する金額となるから、過少申告加算税もこれを基礎として九万三二〇〇円を課すことになる。)。

四  よって、原告らの本訴各請求は、右の限度で理由があるから認容し、その余の部分には理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邊 昭 裁判官 宮岡 章 裁判官 今中秀雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例